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広島市/広島

おやつ感覚で楽しめる昔懐かしい和菓子の数々
近所の和菓子屋さんというスタイルを守りながら
心通った逸品を提案し続ける

広島市/広島

森本 真由美_福々庵

2024.12.10

広島市中区の一画に工場を構える「福々庵」。2013(平成25)年の創業以来、昔ながらの手焼きにこだわった「福まんじゅう」などを販売しています。手掛ける品々は和菓子というよりも、おやつ感覚で楽しめるものばかり。手土産としてはもちろん、気軽に小腹を満たせるお菓子としても年代を問わず親しまれています。

株式会社 福々庵の代表取締役を務めるのは森本真由美さん。商品開発やマーケテイングを得意とし、魅力あふれる和菓子を提案し続けてきました。近年は溶けない不思議なアイスや希少な宮島はちみつを使った焼き菓子などが話題に。一方で「近所の和菓子屋さん」という創業時の立ち位置は変えたくないそうです。商品についても裏付けとなるストーリー性を大切にしているといいますが、こうした心境に至るまでにはどのような歩みがあったのでしょうか。

創業時からの思いを語っていただいた森本社長

子どもも立ち寄れる身近な和菓子店として始動

森本さんが広島市西区にて小さなまんじゅう屋を創業したのは2009(平成21)年のこと。近所の子どもが毎日のように通って2階で宿題に励むなど「本当に寺子屋のような店」だったそうだ。そこで子どもたちが口にしていたのが福々庵の看板商品である福まんじゅう。お小遣いの範囲で買えるようにと利益度外視の価格設定にした。

折しも核家族化が進み仕事を持つ母親も増えつつあった時期。帰宅しても誰もいないという子どもも多かった。そんな子どもたちが集える場を作るとともに小腹を満たしてあげたい。福々庵の原点には子どもの健やかな成長を願う強い思いがあったという。

デジタル化の流れが押し寄せる中、アナログな人と人との会話が交わされる店として地域に根差す。同時に県内の百貨店などへ出店したところ、次第に福まんじゅうの評判が広がっていった。2013(平成25)年には株式会社 福々庵を設立。本店を広島県中区に移転のうえ、本格的な卸売販売を展開するに至る。

オリジナル焼印により値打ちのある商品を提供

手作りの優しい味が魅力の福まんじゅう。一つ一つ丁寧に手焼きして「福」の焼印を押していく。福を呼び込む手焼きまんじゅうとしてお祝い用の手土産にも最適だ。直径は5.5cmと小ぶりな二口サイズ。ここにも「小さな子どもも手で持って食べやすいように」という森本さんの思いが反映されている。

定番の焼印は福だけではなく、カープ坊やが押された「カープ福まんじゅう」や必勝の文字が入った「必勝まんじゅう」など種類豊富に取り揃える。さらに、地元企業や学校などから依頼を受けてオリジナル焼印を押した福まんじゅうも製造しているという。工場内に保管された焼印の数は既に250個以上。森本さん自ら焼印の手配より着手して、地元の人たちに値打ちのある商品を提供する。

当然このような方式には手間暇が掛かる。しかしながら森本さんは企業などからの大口依頼のみならず、個数の少ない注文にも対応しているそうだ。「福々庵は小さな会社で小回りが利くというのが定着しているから。そこはやっぱりお客様のために守ろうと思って」あくまでもお客様と心を交わしながら歩む近所の和菓子店というスタンスは崩さない。

福々庵の企業姿勢を体現している代表商品「福まんじゅう」

コロナ禍を受けて取り組んだ商品力の強化

一方でコロナ禍の影響により、福々庵の販売スタイルは大きな変更を余儀なくされた。それまでメインであった実演販売やイベント・催事への参加がほぼ不可能となり、会社の存続も危ぶまれる事態に陥ったという。しかし、森本さんは前向きな姿勢を忘れなかった。持ち前のアイデア力を発揮して、地元の学生たちの協力も得ながら「アマビエ福まんじゅう」を限定販売。売上の一部を広島市へ寄付した。

同時に福まんじゅう以外の和菓子とも向き合い、商品力の強化に取り組んだ。具体的には、暑い夏はまんじゅうではなくアイスを食べたいという高齢者施設利用者の声から生まれた「シャリもち葛バー」をリブランディング。パッケージやアピール方法を見直したところ、葛粉を使用した溶けない不思議なアイスとして大ヒットを飛ばす。また、知人とタッグを組み宮島で採れたはちみつを使った焼き菓子を開発。人々に福が訪れるようにとの願いを込めて宮島に祀られる三女神にあやかった「さんひめはちみつ廣島バターケーキ」などを売り出した。

現在も実演販売は年に一度程度しか実施されておらず、福々庵店頭での販売も行われていないが、コロナ禍を機にさらに魅力を増した商品は公式オンラインショップDWモールにて買い求めることができる。森本さんが思いを込めて仕上げた和菓子の美味しさをぜひ堪能してほしい。

JR西日本広島支社が企画したてみてプロジェクトで生み出された「さんひめはちみつ廣島バターケーキ」

働く場所を創出するという役割

改めて商品開発に注力するようになった森本さん。営業などの役割も一手に担うことから以前は他県へ足を運ぶ機会も多かったが、今は工場に腰を据えてスタッフ一丸となり協力体制を取っている。製造の段取りなども皆で決めているのだとか。最近は外注先のスタッフも福々庵の商品に愛着を持って取り組んでくれていることを知り、大きなやりがいを感じているという。

工場内で働く人たちは主婦や定年退職後の方が多いそうだ。森本さん自身が子育てしながらビジネスを展開してきただけに、家族のことを第一に考えながら働ける場所を提供したいという思いも強い。商品力を強化したことで結果として売上が伸び、より高い対応力が求められるようになった。現在は適宜知識を伝えながら日々の業務に当たっているといい「ここにきて人を雇用し育てていくということをやっと始めた感じですかね」と森本さんは語る。

食べ継がれる昔懐かしい味

これからについて伺うと、後継者などの具体的なビジョンはまだ描いていないとの答えが返ってきた。余り先のことは考えず目の前の仕事に邁進し、今後10年ほどで明確な方針を決定していきたいという。ただ、会社をもっと大きくしたいという考えはないのだとか。「商品がどんどん広がっているからこそ、どうすれば一番安全かとか、そういったことを考えながらやっています」と手の届く範囲での職務充実を誓う。加えて現行商品から派生した和菓子を開発するなど、会社の規模はそのままに、より多くの製造を進めていきたいそうだ。

前向きな成長を続けつつも創業時の思いを守りながら歩んできた福々庵。近年はかつての子どもたちが大人になって親子二代で訪れることもあるといい「赤ちゃんを抱いてきたりしてくれるんですよ。嬉しいですよね、本当」と森本さんは目を細める。子どもの頃の記憶を想起させるような懐かしい味。そこに人々の思いやその時々のタイミングが重なり、福々庵ならではの味が形作られている。

夏の大人気商品となった「シャリもち葛バー」

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