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広島市/広島

経験が未来を拓く
苦境を乗り越えて
木工会社の新たな柱をつくる

広島市/広島

天王 淳雄_Ten & O

2024.11.13

木目の美しさや手触りの良さなど、さまざまな魅力を持つ木材。

今回訪れたのは、そんな木材から壁板やフローリングなどの建材づくりをする広島市の会社、株式会社 天王です。木材選定から加工や塗装まで一貫して行い、品質の高さと確実な納期で県内外のメーカー等から信頼を寄せられています。

また近年では、自社ブランドの「Ten & O」も設立。建材づくりで培った経験を生かし、木製のプレートやマルチトレイなど一般向けオリジナル商品を開発販売しています。

代表取締役社長の天王淳雄さんと、「Ten & O」で主に企画開発を担当する奥様の美鶴穂さんに、天王と「Ten & O」のこれまでの歩みや今後の展望についてお聞きしました。

思いを語っていただいた、淳雄さん(左)と美鶴穂さん(右)

苦境の先に見出した新たな道

天王は1975(昭和50)年、淳雄さんの父により創業された。創業当時は住宅メーカーからの依頼で、主に無垢材を使って扉の外枠など建具の加工をしていたという。

ところが加工した木質素材に木目模様の樹脂製シートを貼り付けた安価なラッピング材が流行し始めると、無垢材を使った建具の需要は減少。天王の仕事も激減してしまう。その後、健康志向、自然素材などが見直され、再び無垢材は注目されるようになっていったものの、無垢材を使った建具の需要が全盛期の状態にまで戻ることはなかった。

そんな折、たまたま知り合いの業者から依頼され、壁板や床材などの建材の加工や塗装を開始することになった天王。完成物の高品質さ、納期の確実さから信頼を集め、取引先は次第に増加。さまざまな事業者から多数依頼を受けるまでになった。建材の加工や塗装という新たな道を見つけ、苦境を脱することに成功したわけだ。

しかし淳雄さんは苦境に立たされた時代を忘れることはなかった。建材の加工や塗装の依頼も今まで通り大切にしながら、「自分たちの努力次第でずっと続けられる、一般向けのオリジナル商品も持ちたい」と思うようになっていったという。

こうして天王は建材の仕事を続けながら、一般向けオリジナル商品の開発にも乗り出すことになる。

光明をもたらした「てみてプロジェクト」

淳雄さんと奥様の美鶴穂さんが中心となり、一般向けオリジナル商品の開発を始めた天王。しかし開始早々大きな壁に突き当たる。

天王は木工のプロだが、一般向け商品の企画やデザイン、販売の経験はゼロ。インターネットで自分たちなりにデザインなどを調べて案を出してはみたものの、そこから先どうしていいか分からなかった。「何かしないといけないのに、何をどうしていいのか分からない。ずっとモヤモヤしていました」と苦笑いで当時を振り返る淳雄さん。悶々とした状況が続き、気がつけば10年もの歳月が経過していた。

さすがにそろそろ形にしなければと焦りを感じる中、光明をもたらしたのは偶然知ったあるプロジェクトだった。2021(令和3)年にJR西日本広島支社が広島県・山口県の地域事業者向けに行った、商品開発・販路開拓支援プロジェクト「第1回てみてプロジェクト」だ。

渡りに船と、天王はこのプロジェクトに参加。そこから専門家のアドバイスのもと自社ブランドの「Ten & O」を設立し、一般向けオリジナル商品開発に向けて本格的に走り出す。

2021年3月に開催された「てみて市場in京都」にて

販売イベントを経て進化

「第1回てみてプロジェクト」では、参加事業者ごとにアドバイザーがつき、二人三脚で商品開発をサポート。さらにJR西日本広島支社が販売イベントなどを開催し、販路開拓も後押しした。

「Ten & O」では、アドバイザーである有限会社BAMBIの上本寛子さん協力のもと、一つ目の一般向けオリジナル商品として「可動式ウッドパーテーション Hygge」を制作。2021(令和3)年3月に京都駅前地下街ポルタポルタプラザで開催された販売イベント「てみて市場in京都」に出店した。

この出店は、美鶴穂さんたちに大きな学びをもたらしたという。天王には建具のような大型の木製品をつくってきたノウハウがあった。また当時はコロナの真っ只中。経験を生かせ、需要もあるとの考えから木製のパーテーションをつくることにしたそう。そしてその後、「ポップアップでの出店の経験を経て、大きさや価格の面でお客様がより気軽に手に取れる商品にも取り組んでみたいと考えるようになりました」と美鶴穂さん。次は小さめの木製品をつくりたいと思うようになったという。

こうしてできた二つ目の商品が「木製プレート」のまんぷくシリーズ。端材でつくられたプレートで、壁飾りやコースターなどとして使える。お腹がぽっこり膨らんだクスッと笑えるデザインは、上本さんが紹介してくれた広島在住イラストレーターの堤淳子さんに担当してもらった。

2021(令和3)年8月に開催された「てみてプロジェクト in 広島 蔦屋書店」では、このまんぷくシリーズを販売。予想以上に人気を集めたという。その後「木製プレート」はひろしまシリーズ、ねこまみれシリーズと展開していき、ekie広島駅内のセレクトショップ・しま商店や、JR西日本が運営するDWモールなどへと販路を拡大した。

また2024(令和6)年6月からは、しま商店にて三つ目の商品「育てる木製トレイ」の販売も開始している。

Ten & Oが手掛ける「木製プレート」と「育てる木製トレイ」

できないことを認め、できるように考える

最初の商品販売から3年が経過した「Ten & O」。今どんな感想を抱いているかと淳雄さんに伺ったところ「今の状況までこられたのは正直言って驚きです。ゼロベースでどういうふうに進んでいくのか見当もつかなかったところから始まっていますから。今は手応えを感じているので頑張っていきたいですね」と力強く答えてくれた。今後は「Ten & O」を建材の仕事に続く、新たな天王の柱にしていければと考えているそうだ。

また企画開発の部分を担ってきた美鶴穂さんは「今後もデザイナーさん、イラストレーターさんと相談しながらやっていきたいです。てみてプロジェクトに参加して、自分たちができることと、できないことを明確にすること。そしてできないことはプロに助けていただくということの大切さに気づけました」と言う。

天王は創業50年近くになる木工会社。当然プロとしての矜持はあるだろう。だが淳雄さんも、美鶴穂さんも、これまでの苦境やつまずき、そしてそこから立ち上がった経験について包み隠さず話してくれた。

できないことを認め、できるように模索していくその姿勢は、清々しく、頼もしい。「Ten & O」はこれからも試行錯誤しながら、素敵な商品を生み出していくだろう。その展開に期待したい。

これからもお二人で歩む未来に期待

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