革職人のかっこよさを伝えたい!
藍染革の「福山レザー」で
工房の観光地化を目指す
革職人のかっこよさを伝えたい!
藍染革の「福山レザー」で
工房の観光地化を目指す
福山市/広島
2024.09.18
広島県の最東部、備後地域にある福山市。古くから潮待ちの港として栄えた鞆の浦や、徳川家康のいとこである水野勝成により築城された福山城などがあり、自然と歴史を感じられる土地です。
今回訪れたのはそんな福山市にあるレザースタジオサード。牛革製品の製造販売をする工房兼店舗で、備後絣(びんごがすり)に着想を得た「福山レザー」やランドセルのリメイクなど、ユニークな商品やサービスでも注目を集めています。
株式会社サードの三島進代表に、レザースタジオサードの創業秘話やこれまでの歩み、革職人としての思いについてお聞きしました。
さまざまな革製品が揃う店内での三島さん
三島さんは1980(昭和55)年、福山市で革工房を営む父のもとに生まれた。幼い頃から革職人である父の背中を見て育ち、中学生になる頃には父の工房でアルバイトをするようになっていたという。
ものづくりが好きだったこともあり、楽しく工房を手伝っていた三島さん。そのまま革職人を目指すかと思われたが、高校でバンド活動に出会い「音楽で一旗あげてやる」と意気込むようになる。高校を卒業すると上京、バンド活動の費用を稼ぐためにも仕事を探し始めた。
見つけた仕事は寿司職人だった。職場はカウンター越しにお寿司を握る、いわゆる回らないお寿司屋さん。住み込み、まかない付きという条件に惹かれて就職を決意し、就職後は「とにかく接客が楽しかった」という。しかしそこは厳しい職人の世界。労働時間が長く、休みも不規則だったためバンド活動ができなくなり、寿司職人は早々に断念。上京からわずか半年で福山市の実家に戻ることになる。
実家に戻った後もバンドを続けるためにアルバイトを探していた三島さんだったが、そんな姿を見かねてか、ある日「手伝え」と父が声を掛けてきた。そこから再び父の革工房で働きだし、8年間の下積みを経て独立。レザースタジオサードを設立した。
「工房名を『サード』としたのは、革屋の三男坊として生まれたから。紆余曲折はありましたが、私は生まれながらに革屋だったんですよね」と三島さん。ちなみに三島さんのお兄さん二人も革職人になっており、今や「福山市の革といえば三島」なのだそう。
三島の三男としてこれからも革と共に歩んでいく。そんな思いを込めて名付けたレザースタジオサードで、三島さんの新たな挑戦が始まった。
店内では革職人の作業の様子が垣間見れる
レザースタジオサードを設立し、革製品の製造販売を続ける中で、三島さんは一つの夢を抱くようになっていた。サードを観光地にすることだ。「軌道に乗ってきたら東京に出店するという流れがあります。でもサードは東京からわざわざ人が訪れるような工房にしたかったんです」と三島さんは言う。
観光地になるためには旅行ガイドブックに載せてもらうことだと考えた三島さんは、調査のため本屋へ。しかし探せども、探せども、福山市のガイドブックは見つからず、広島県のガイドブックにも福山市の記載はなかった。そこで「そもそも福山市自体が観光地ではないのか」と気づいた三島さん。サードを観光地にするには、まずは福山市を観光地にしなければいけないと思うようになる。
福山市を観光地にするため自分に何ができるかと考えた時、思いついたのは革製品で特産品をつくることだった。そこで目をつけたのが福山市の伝統工芸品である備後絣。備後絣に使われる生糸は、主に藍という青い染料で染められる。藍で革を染めて小物をつくれば、福山の歴史を伝える特産品になるのではないかと考えたのだ。
革を藍で染めた「福山レザー」
こうして生み出されたのが「福山レザー」。手作業で革を藍染するため、一つ一つ異なる色合いを楽しめる。「福山レザー」の誕生以降、サードでは「福山レザー」を使ったさまざまな製品を発表することになるが、中でも反響が大きかったのは「シャルマン」というキーホルダーだという。
「シャルマン」は福山市花である薔薇をモチーフにした製品。藍染の青い薔薇が目を引く、どこかレトロさも感じさせるおしゃれなキーホルダーだ。
青い薔薇はかつて「不可能」という花言葉を持っていた。自然界に青い薔薇は存在せず、品種改良によってもつくるのは難しいと考えられていたからだ。しかしバイオテクノロジーの進歩により、2002(平成14)年に世界初の青い薔薇が誕生。すると花言葉も「奇跡」に変えられた。
「シャルマン」には誰もが不可能だと思う福山市観光地化の奇跡をかなえる薔薇になってほしいという、三島さんの願いが込められている。
発表以降多くのメディアに取り上げられ、現在も販売が続けられている「シャルマン」。いつの日か私たちに福山市の観光地化、そしてサードの観光地化という大輪の花を見せてくれるのかもしれない。
福山レザーで作られた薔薇をモチーフにした「シャルマン」
三島さんはサードを観光地にすることの他に、革という素材の素晴らしさ、そしてその革を扱う革職人のかっこよさを広く発信することにも力を入れている。
「革はマンモスがいた時代から人に寄り添ってきた素材。大昔より人は動物から得た皮で服をつくり、時代の変化と共にトランク、ハンドバッグなど形を変えながら革を利用し続けてきました。こんな素材はなかなかありませんよ」と三島さん。その革を扱う革職人は最高にかっこいい職業であり、将来なりたい職業のトップ3にランクインするような、子どもたちが憧れる職業になってほしいと思っているそうだ。
革の素晴らしさや、革職人のかっこよさを発信するため、サードではこれまでにラスベガスの展示会への出展、映画への商品提供、漫画への出演などを行なってきた。また各種メディアからの取材にも積極的に応じてきたという。
「職人だからといって発信をおろそかにしてはだめだと思います。私もサードを設立してからはおしゃべりになりましたよ。といっても、もともとの性格によるところも大きいんですけどね」と三島さんは茶目っ気たっぷりに笑う。その笑顔を見ていると、革職人の未来はきっと明るいものになるだろうと思えてきた。
今後はジャパンブルーとも呼ばれる藍色の「福山レザー」を起点に、世界進出も視野に入れているというレザースタジオサード。どんな展開を見せてくれるのか楽しみにしたい。
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