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防府市/山口

竹害から「竹財」へ
地域社会と向き合いながら取り組む
エシカルなものづくり

防府市・宇部市/山口

田澤 恵津子_エシカルバンブー

2024.08.21

竹の魅力と可能性を追求し続ける「エシカルバンブー」。竹繊維を用いたオリジナルタオルや天然成分100%の竹洗剤を手掛けるなど、竹を生かした商品企画・製造・販売を行っています。併せて新山口駅から車で20分ほどの場所にて「竹ラボ」を運営。同施設は竹のミュージアムなどを備えた「竹の総合施設」です。

宇部市小野地区の廃校を活用した竹ラボを訪れると、エシカルバンブー株式会社の代表取締役社長兼CEOである田澤恵津子さんが出迎えてくれました。館内の展示品について解説する口調は力強く、竹に対する情熱が伝わってきます。かつては東京で働き、大手商社・広告代理店などでマーケティングやブランディングのキャリアを積んだという田澤さん。どのような経緯で竹に魅入られ、山口の地にエシカルバンブーを設立したのでしょうか。決して平坦ではなかったという歩みについて詳しく伺いました。

さまざまな角度で竹の魅力を伝える田澤さん

多角的な視点から見つめた竹の可能性

百貨店勤務やカナダ留学などを通じて物事を多角的に見る視点を磨いてきた田澤さん。その後は大手商社等に籍を置き、独立。取引先が口にした「竹の伐採に苦慮している」との話が耳に留まった。聞けば、まさに破竹の勢いで放置竹林が増加して事業に支障が出ているという。伐採して商品にするにも消費が追い付かない。田澤さんは何とか「竹害」に対処できないかと千葉の現場へ向かった。

そこで驚異的な竹の成長の速さを目にした田澤さんだが「逆にこの成長性が竹の可能性に繋がるのではないか」と考えた。同時にかつての日本では竹が重用されていたという歴史を紐解き、竹の持つ機能性にも着目していく。先人たちが竹皮でおにぎりを包んだのは抗菌力があるから。竹ぼうきや竹ざるといった民具も日々の生活と密接に関わっていた。日用品として付加価値を与えれば竹害を「竹財」にできるかもしれない。竹は悪者という目線を変えたい。田澤さんは循環的に使える資源として竹の活用を模索するうち「竹の無限の可能性」にはまり込んでいったという。

竹は昔から生活と密接に関わっていた

上質な竹のタオルを形に

日常に馴染み、かつ竹の可能性を実感できるものを作りたい。そう考えた田澤さんが着手したのが竹タオルの開発だ。日本の竹は繊維にしづらいという条件もある中で自ら海外まで足を運び、安全性・環境性が担保された天然素材を取り扱う工場と契約。東日本大震災の発生もあってプロジェクトの進行は困難を極めたが「事業・産業として継続できる流れを生み出す」という信念のもと、助成金などは受け取ることなく竹繊維のタオルを作り上げた。

2010(平成22)年より販売を開始した竹のやわらかタオル。現在に至るまでたびたび品切れを起こすほどの人気商品だ。その魅力は何といってもシルクのように滑らかな肌触り。拭くというより「乗せた水分を吸い取る」との形容がしっくりくる吸水力の高さにも驚かされる。

人気商品となっている竹のやわらかタオル

地域の人々に支えられた山口での事業承継

要所ごとにさまざまなビジネスパートナーとの出会いも経て竹タオルを開発し「私は竹の事業をやる人になろう」と覚悟を決めた田澤さん。タオルと併せて使いたいとの要望を受け、人と環境に優しい洗濯用洗剤の開発にも乗り出すこととなった。その際に関連の技術を山口県の企業が保有していると耳にする。縁もゆかりもない土地ではあったが、まずは当該企業を訪れた。

竹炭と湧水で作る安心安全な洗剤原液「竹ミネラル」を開発した企業は山口県防府市にあった。80歳前後の地域住民たちによって運営されており、間もなく事業をたたむ予定という。とはいえその技術は目を見張るほどのもので、将来性もある。竹タオルを手にやり取りするうち、田澤さん自身が事業承継して工場をやればいいとの言葉を掛けられた。

同時期に「竹で困っている山口県で事業を展開できないか」との声が届いたこともあり、防府市にて竹ミネラル製造業務を承継しようと決意。2015(平成27)年に国産竹から生まれた洗剤「バンブークリア」の販売を開始すると、その翌年にはエシカルバンブー株式会社及び製造工場を設立した。当初は東京との地域性の違いに戸惑うことも多かったが、次第に地域の人たちが応援してくれるようになり「いつしか自分のフィールドが山口に変わった」という。こうした経緯から田澤さんは会社の成功を「地域の人たちに愛され、必要とされる企業になること」と捉えているそうだ。

竹から生まれた洗剤「バンブークリア」

失敗を恐れず「竹道」を行く

大手企業から独立後、ふとしたきっかけで竹と向き合い、ついには山口で事業承継するに至った田澤さん。話を伺うにつけても困難と挑戦の連続であったことが伝わってくるが、途中で投げ出そうとは考えなかったと振り返る。承継の重みを感じながら、関わってきた人たちの思いに感謝を以って応え続けたい。自分の人生を誇れるように凛として歩んでいたい。トラブルが起きても「たとえ失敗したって嘆くのではなく、やり切った方が楽しい」と前を向いた。著名な起業家から掛けられた「竹のことを話すときに輝いているね。君は竹道を行きなさい」との言葉も後押しになったという。

田澤さんの覚悟は社名にも表れている。エシカルとは「倫理的」という意味の形容詞だ。倫理に反することは一切せずに竹(バンブー)を取り扱う。重たい社名に日々背筋を正しながら、誰も何も傷つけることがない「すべてを尊重したものづくり」を竹で実践していく。容易ではないが商品を手にした人たちの笑顔を見ると、いい仕事をして更に次へ繋げようと熱量が上がるそうだ。

社名からも田澤さんの覚悟が感じられる

新たな竹産業を未来へ引き継ぐ

2020(令和2)年には宇部市内に竹ラボ及び国内初の竹繊維専門工場を設立したエシカルバンブー。その取り組みは今や海外からも注目されており「竹の商品を卸してほしい」「工場を建ててほしい」といった依頼が幾つも寄せられている。しかしながら田澤さんはまず国内の資源を潤滑に回すことが一番と語る。更に言えば拠点となっている山口の地で「山口モデル」を作り上げることが肝要と意気込む。

現在エシカルバンブーは山口県立ち合いのもと、宇部市・美祢市と協定を結び、竹の利活用や環境保全はもちろん産業振興も目指す「やまぐちバンブーミッション」の展開によって、地域社会に根差した活動を進めている。竹林面積が全国4位の山口県。竹資源の豊かさと県そのものの魅力を絡めた動画を制作するなどし「山口の竹は未来の有益な宝になり得る」と発信しているそうだ。一方で近隣の社会復帰促進センターへ向けて竹箸づくりの刑務作業を提供。竹資源とあらゆる人を巻き込んだ林業の活性化を通じ、循環型社会の山口モデルを確立したいという。

山口県で地域にとって魅力のあるフォーマットを作り上げ、竹の繁茂に悩む他県へも広げていきたいと語る田澤さん。ただし、山口で開発した商品をそのまま持ち込むつもりはない。各地域の特性をリスペクトし、その地に合った商品開発を進めたいという。「将来的にはその地域の歴史や風土を全部入れ込んだ竹の事業を組み立てていきたいですね」田澤さんの竹道はまだまだ続いていく。

竹の総合施設「竹ラボ」

〒754-1311 山口県宇部市大字小野8345-2 地図を見る

TEL/ 0836-55-6179
開館日/月・火・木・土・日曜日
開館時間/午前の部10:00~12:00 午後の部13:00~16:00
※見学人数が多い場合・特別室の見学を希望する場合は事前予約要

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