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周南市/山口

要望に応える製造技術を追求
「ジェラテリアクラキチ」が示す
手作りジェラートの形

周南市/山口

藤井 蔵吉_ジェラテリアクラキチ

2024.07.31

緑豊かな周南市長穂の山間。かつて学校として使われていた建物の一画に、手作りジェラート専門店「ジェラテリアクラキチ」のラボがあります。建物の中は廃校というイメージとはかけ離れた明るく清々しい雰囲気。家庭科室などを活用して優しくも濃厚な味わいのジェラートが作られています。

ジェラテリアクラキチは「株式会社 万人舎」が運営するジェラートブランドです。代表取締役を務める藤井蔵吉さんの実家は周南の地にて1922(大正11)年より続く「藤井牧場」で、ジェラートには牧場のミルクが使用されています。各原料の性質を見極めながらさまざまなフレーバーを生み出していく藤井さんの姿は研究者さながら。その原動力とジェラテリアクラキチの展望について伺いました。

周南市和田にある藤井牧場

お客様の反応を受けてのジェラート作り

学生時代から実験が好きだったという藤井さん。北海道の大学で細胞生物学を修めながら研究者を目指していた時期もあったが、すぐに結果が出て反応が見えることに取り組みたいとの考えからジェラート作りの道に進んだ。口にした人たちの反応が間近で見れる。液体を個体にするという単純な作業だけに、組合せ次第で全く違うものが出来上がる奥深さもいい。実家が牧場であることに加え「単純で複雑なところ」に魅力を感じてジェラート作りを始めたという。

イタリアで本場のジェラートを学んだ後、2017(平成29)年にジェラテリアクラキチを立ち上げ。周南市内の商店街に店舗を構えた。訪れた人のリアクションをデータとして集めてジェラート作りに反映していく。雪のようにジャリジャリとしたジェラートが出来上がることもあるなど試行錯誤の日々。ただ、ダイレクトな声を吸い上げつつオーダーメイドのようにジェラートを作るステップはやりがいのあるものだった。

周南店を運営していた当時の藤井さん(2020年撮影)

ラボを構えて製造に専念

より顧客のニーズに合わせたジェラートを作りたい。技術力が上がるに伴って製造に専念したいとの思いが強まっていく。廃校を活用したラボの設備が整うと、2022(令和4)年末に周南店の営業を終了。人と会うことも少なくどこか落ち着く山間のラボに拠点を置き、これまで以上にジェラート作りと向き合うことになった。

現在は自社商品の販売促進を図る企業や特産品をPRしたい自治体などの依頼を受け、さまざまなジェラートの開発に注力している。大規模な製造ラインを持っているわけではないが、だからこそ少数からの対応や細やかなフォローも可能になる点が強みだ。ジェラートを通じて商品を広めたい、大勢の人に食べてほしいという思いに応える形で提案を行う。どのような依頼にしても最終的にベストな状態となるよう取り組んでいる。

ただ、顧客の要望を叶える最適解が必ずしもジェラートだとは考えていない。そのため、作る価値があるかを見極めながら依頼を受けている。求める味や仕上がりのイメージが具体的であるほど対応しやすいのだとか。また、持ち込まれた原料の背景に隠れた物語性があると、自らのジェラートがそれを伝えるツールになり得る点にも面白みを感じるそうだ。

ラボとなる家庭科室での製造の様子

ネガティブな声こそ糧に

ジェラートを作る過程ではネガティブな意見こそ前のめりに受け止めていると語る藤井さん。明確な好みがあり、ここが美味しくない・甘すぎるといった注文が入るほど製造に生かせるという。「悪い評判が嫌という方も多いかもしれないですけど。それを割と冷静に受け止められる仕事なんですよ。そこはいいな、面白いなと思いました」と今も変わらない創業時の心境を振り返る。笑顔が印象的で周囲を明るくする魅力を持った藤井さんらしい、前向きかつ向上心にあふれた考え方だ。

対組織の仕事がウエイトを占めるようになった今も、一人一人のお客様の声に向き合うことも忘れない。2020(令和2)年に宇部新川駅から徒歩8分ほどの場所にオープンした実店舗「手作りジェラート専門店 クラキチ ペリカンレーベル 宇部店」は変わらず営業中。県内外のイベントにも参加してキッチンカーによる販売を行う。加えて公式オンラインショップや「JR DISCOVER WEST mall」を通じてもこだわりのジェラートを届けている。JR西日本広島支社の声掛けから開発がスタートした「食べるSLやまぐち号 石炭ジェラート」など、限られた場所でしか手に入らないフレーバーもあるが、ジェラテリアクラキチの味を遠方でも楽しめるのは嬉しい。

食べるSL やまぐち号 石炭ジェラート

人材に向けて幅広い働き方を提示

より製造に軸を置くことにシフトする中で従業員の働き方にも変化があった。ラボで働くメンバーたちについては営業時間に縛られることがなく、以前に比べてフレキシブルな働き方が可能になったそうだ。家族の体調不良による遅刻なども許容しやすい。逆にここまで作業を終わらせたいから後で2時間だけ出勤したいといった要望にも応じることができ、働きやすさにつながっている。

一方でイベント出店による遠方への出張も従業員のモチベーションアップに一役買っているという。出張業務を一任してやりがいを感じてもらうことはもちろん、出張先での自由時間がスタッフたちにとって楽しみの一つとなっているようだ。とはいえ出張業務が家庭での時間を大きく制限するようではいけない。「人材は貴重ですから。働き方のバリエーションをいろいろと増やすことで、働きたい方にはずっと仕事をしてほしい」藤井さんは共に働く人たちの目線も意識しながらジェラテリアクラキチの舵を切っている。

研究を重ね美味しさを追求したミルクジェラート

続いていく探求の日々

今後について伺うとラボがある山に牛を放したいという答えが一つ返ってきた。酪農というよりも森林整備の観点から、手付かずになっている地域の森を何かしら活用できないかと検討しているそうだ。地域の人材が働き続けられる環境を整えつつ、地域資源の更なる可能性も模索していく。藤井さんの目線は生まれ育った周南の地にも向けられている。

製造の奥深さも日増しに実感しているそうだ。すでにしらすのジェラートなど、驚くようなフレーバーも形にしてきたが、今後も対応力を磨きながら製造規模を広げていきたいという。しかしながら、急激かつ際限のない規模拡大は望んでいない。いくら売り上げがアップしても商品のクオリティや従業員たちにしわ寄せがいっては意味がない。ジェラテリアクラキチならではの質の高い提案を続けながらもブランドとして成長すべく、藤井さんの探求の日々は続く。

ラボとして利用している旧長穂小グラウンドに立つ藤井さん

手作りジェラート専門店 クラキチ
ペリカンレーベル 宇部店

〒755-0046
山口県宇部市南小串1-2-3南小串ビル1階A 地図を見る

TEL/070-9306-9907
営業時間/12:00~18:00
定休日/月曜日・火曜日

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