長く愛されるふりかけの元祖「旅行の友」
創業者が示した「子を想う親心」を受け継ぎ
唯一無二の美味しさを届ける
長く愛されるふりかけの元祖「旅行の友」
創業者が示した「子を想う親心」を受け継ぎ
唯一無二の美味しさを届ける
広島市/広島
2025.03.19
広島市に本社を置く、創業120年余の「田中食品」。明治時代に販売を開始した、ふりかけの元祖「旅行の友」などの商品を手掛けています。小魚粉末を主原料とする旅行の友にはカルシウムがたっぷり。美味しさはもちろん、栄養豊富な素材にこだわっている点が特徴です。
今回お話を伺ったのは、田中食品株式会社の代表取締役社長を務める田中孝幸さん。老舗の5代目として伝統の味と受け継がれた思いを守りながら、日本のふりかけ文化をさらに発展させようと注力しています。さまざまな資料と共に語られたのは、旅行の友が誕生した経緯やオリジナルキャラクター「トモちゃん」にまつわるエピソード。普段の食卓に何気なく並ぶ旅行の友ですが、その奥深い歴史を改めて紐解いていくと、田中食品の現在地や今後の展望も鮮明に見えてきました。
思いを語る、5代目代表の田中社長
田中食品の前身となる「田中商店」が創業したのは1901(明治34)年のこと。呉市の海岸通にて漬物や味噌などの製造販売を始めたところ、海軍から「持ち運びが容易で栄養価が高く、日持ちする食品を開発してほしい」と要請された。これを受けて、日本で初めてとなるふりかけの製造に着手。自らの子どもを戦地へ送り出していた創業者の田中保太郎氏は「戦地において少しでも栄養価の高いものを食べてほしい」という親心も込めながら、旅行の友を作り上げたという。
陸海軍に兵食として納入された旅行の友。その名称は創業者の妻「トモ」への感謝の気持ちと、人々の「旅のお伴」になってほしいという願いを表している。ちなみに、かつては「旅」という言葉自体が軍隊を意味するものとして用いられていたのだとか。時代が移り変わった今でこそ、旅行の一コマに彩りを添える食品と捉えられるが、旅行の友にはこうした誕生秘話があった。
1904(明治37)年から開発に着手し、海軍への納入を始め、その後一般販売を開始。当時は現在における、ふりかけの総称が旅行の友であったという。日本特有の「ふりかけ文化」を形作ったともいわれる旅行の友。今なお田中食品の看板商品として多くの人たちに愛されている。
発売当初の「旅行の友」
旅行の友は小魚粉末を醤油で味付けしたものに、ゴマや海苔を加えて製造される。開発当時のレシピを受け継ぎながら、昔は高価で使用できなかった玉子などもブレンドするようになった。ひとたび口に含むと、魚の香りが豊かに広がってクセになる。その味わいは何物にも形容しがたく「旅行の友は、旅行の友の味」というほかない。実際に他社とコラボレーションした「旅行の友味」のスナック菓子なども人気を博しており、唯一無二の魅力が広く認知されているといえるだろう。
パッケージのユニークさも際立っている。大きくあしらわれたオリジナルキャラクターのトモちゃんは、著名なグラフィックデザイナーである大智浩氏が手掛けた。トモちゃんが登場した1954(昭和29)年は白黒が当たり前だった時代。そのカラフルなデザインは大いに人目を引いたという。トモちゃんの頭は電車の切符になっており、旅行をイメージしたキャラクターであることが伺える。当時は乗車駅が特定できるように、形の異なる改札バサミを用いていたため、切符の切り口が同一でないのも興味深い。
今では数多くの商品がラインナップされている
田中食品は現在、広島県内の2か所に工場を構えて、旅行の友など170種類ほどのアイテムを製造しているという。他社からの依頼を受けて、OEM製品を手掛けることも多いが、創業者が示した「子を想う親心」という企業理念はぶれることなく持ち続けているそうだ。「何といっても口にする人の健康が第一。そこから外れるものは作らないというのが、田中食品に伝わる商品作りの基本なんです」と語る田中さん。幼い子どもが白米に慣れ親しむ一助として、また、手軽に口へ運べる栄養たっぷりの食品として、素材にこだわった田中食品の商品を取り入れてほしいと力を込める。
現状でも「タナカのふりかけ」は多くの家庭で親しまれており、西日本エリアを中心に高い支持を得ている。一方で、東日本に目を向けるとまだまだ認知度が低い。田中さんはこれから商品の魅力のみならず、ふりかけの歴史についてもより広く発信していきたいと考えている。
広島東洋カープをはじめ、さまざまなコラボ商品を展開している。
老舗食品メーカーとして日本の食文化と向き合い続けてきた田中食品。2020(令和2)年には国内外の観光客で賑わう宮島口に、ふりかけ文化を伝える拠点の役割を担う「旅行の友本舗」をオープンした。旅行の友本舗では、定番のふりかけはもちろん、他県やスーパーなどでは手に入らないアイテムを多数ラインナップ。素材にこだわった手作りおむすびやトモちゃん関連グッズも人気だ。
また、旅行の友本舗においては開発に20年以上を費やしたという「巻くふりかけ」を販売。白米に巻くと簡単に美味しいおむすびが完成する味付きのシートで、素材そのものの風味と特許取得の独自製法による新感覚の食感を堪能できる。春巻きの皮代わりにするなど、アイデア次第でさまざまなアレンジが利くのも楽しい。「ふりかけの多彩な食べ方を知ってほしい」という田中食品の思いを形にした逸品だ。
当初はオープン11日にしてコロナ禍による休業を余儀なくされた旅行の友本舗だが、現在は多くの観光客がお土産としても、タナカのふりかけを買い求めている。持ち運びやすく日持ちするふりかけは、お土産に最適。カラフルな見た目が映える巻くふりかけは、黒い食品を敬遠する外国人にも好評という。なお、同商品は繊細な作りゆえに大量生産できないため、旅行の友本舗を始めとする、一部お土産物店と「タナカの<ふりかけ>通販」でのみ販売中。その他にも直営店ならではの限定品を見掛けたら、ぜひ手に取りたい。
宮島口にある「旅行の友本舗」内観
田中さんに今後の展望を伺うと、より海外を見据えた取り組みも進めたいという答えが返ってきた。近年、インターネットを介して情報を仕入れた海外の業者から「田中食品のふりかけを使ってみたい」との声が多く寄せられているという。海外の人々は価格よりも、商品そのものの価値や裏付けとなるストーリー性を重視するとのこと。田中さんは日本固有の文化であるふりかけの魅力を届けつつ、健康面でも世界照準の商品を設計したいと意気込む。
一方で、地元・広島の発展に寄与したいという思いも強い。かつては広島駅の一画で料亭を営むなど、田中食品はいつも広島の街と共に歩んできた。「原点に立ち返って広島を盛り上げたいという思いは抱いています。この地に根差しながら、直営店の展開や情報発信を進めていく。地方の発展のために、まだまだできることがありますね」と言う田中さん。広島老舗の矜持を胸に、永く愛されるふりかけを世界へ広めていく。
廿日市市にある広島工場
〒739-0411 広島県廿日市市宮島口1丁目11-8 etto1F 地図を見る
TEL/0829-30-7707
営業時間/10:00~18:00
定休日/年中無休
※災害やメンテナンスなどにより臨時休館する場合あり
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