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萩市/山口

試行錯誤の末に完成した絶品活イカ料理
須佐の港とそこに住む人々が育んだ
新鮮な剣先イカを活きたまま頂く

萩市/山口

福島 淳也_梅乃葉

2025.01.08

山口県萩市の須佐駅に隣接する「口福の馳走屋 梅乃葉」。須佐漁港で水揚げされた「剣先イカ」を活きたまま食べられる、活イカと海鮮料理の人気店です。コリコリとした食感と透明感のある見た目は鮮度が高い活イカならではのもの。イカ以外にも殻付きウニやノドグロなどの山口県が誇る磯の幸を生かしたこだわりの料理を堪能できます。

希少な食材を扱う銘店ながら手書きの掲示物が飾られた温かみのある店内に入っていくと、有限会社 梅乃葉の代表取締役を務める福島淳也さんが出迎えてくれました。祖父母が開いた食堂の三代目として店を盛り立てつつ、オンラインショップにて販売するオリジナル商品の開発などにも注力しています。活かすこと自体が難しいイカを料理として提供するまでには多くの困難があったのだとか。それでも活イカに向き合い続けた理由や、振る舞われる料理の魅力について伺いました。

梅乃葉の名物メニュー「活イカ定食」

さまざまな経験を積んで梅乃葉を継承

梅乃葉の前身となる「福梅」が創業したのは1950(昭和25)年のこと。萩市田万川(旧:阿武郡江崎)にて海産物加工や雑貨小売を行う傍ら、定食などを提供していたそうだ。その後、飲食に加えて仕出し業を営むようになり、1988(昭和63)年には現在地へ移転。屋号も福島さんの祖父母の名前にちなんだ「梅乃葉」に変更された。

その頃の福島さんは地元に腰を据えていなかった。上京して営業や企画開発の仕事に従事した時期もあるが、やがて広島県内にて料理修行に励み始める。観光地にある料亭の門を叩いて住み込みで働いたり、有名店のオープンキッチンに立ったり。さまざまな経験が飲食業のノウハウや多角的な視点を得ることに繋がった。

県外でスキルを磨きながらも、梅乃葉のことは心に留めていたという。30歳を迎える頃には地元へ戻り、店を切り盛りするようになった。ただ、都会で学んだロジックをそのまま生かせるとは考えていなかったとのこと。帰郷してしばらくは新たな事業に手を出さず、目の前のサービスをブラッシュアップすることに注力。同時に地域の集まりへ積極的に足を運ぶなど、地縁を広げることも意識した。

地元への思い溢れる代表の福島さん

イカを活かすことの難しさに直面

かねてよりイカ漁が盛んな土地だったという須佐。港が近く、活イカを軸に据えた町おこしの気運も高まりつつあったが、漁師たちにはせっかくのイカを広く発信する手立てがなかった。地域社会に目を向けていた福島さんは、帰郷から3年ほど経ったタイミングで「活イカをやろう」と決意。行政を介して地元漁師との協働を始めた。

網や機械を使わない「一本釣り漁法」によって丁寧に釣り上げられた須佐漁港の剣先イカ。痛みが少なく鮮度も高いため、活イカとして味わうことができる。しかし、お客様が口に運ぶときまで水槽の中で活かし続けることが非常に難しい。当初はイカの生態を熟知しているからこそ「活イカとして提供するのは無理ではないか」と指摘する関係者も多かったという。

福島さんはその頃の心境について「私にアドバンテージがあったのは無知だったから。イカを活かす難しさを知らないことが幸いして、きっとやれるだろうと取り組めたんです」と振り返る。水槽内のイカが全滅してしまうケースもあったが、ゼロベースでイカを活かすための水槽を整備することに腐心。地元漁師たちも全面的にバックアップしてくれた。

鮮度抜群の須佐漁港で水揚げされた「剣先イカ」

地元漁師らの支えが大きな力に

漁師たちの支えに恩義を感じながら「失敗してもただでは終わらない」と前を向き続けた福島さん。やがて、熱帯魚用の装置を転用することに活路を見出した。そこから関連の知識を共有してくれる業者との繋がりもでき、少しずつ現在に至るまでの技術を確立したとのこと。時にはイカを輸送するトラックの運転手から活イカ独特のさばき方を教わるなど、さまざまな人を通じて机上の学びでは得られないノウハウを身に付けていった。

行政が広報的な役割まで担いながら支援したこともあり、県外からも注目を集め始めた須佐の活イカ。港に設置された水槽の数も次第に増えたという。活イカを堪能したいという観光客はもちろん、一連の取り組みを視察するために須佐を訪れる人も大勢いたのだとか。今でこそ活イカの価値や美味しさは広く認知されているが、当時は先駆的な事例として捉えられた。

店内には支えてくれた漁師たちのパネルが配置されている

ライブ感たっぷりの活イカ料理

現在も多くのファンを魅了し続ける、梅乃葉の活イカ料理。注文を受けてから刺身にするという剣先イカは提供時点でまだ活きている。透き通る皮にドクドクと波打つ斑点模様。活きたイカを頂いているというライブ感を存分に味わえる。ハサミとトングを使って自ら切り分けたイカを口に含むと、抜群の食感に驚かされる。ぬめっとした感覚はなく、咀嚼するたびにコリコリと音がするほど歯ごたえがある。口の中に吸盤が吸い付くことも。遠方からでも足を運んで堪能したい逸品だ。オプションで炭火コンロを注文し、活イカの焼き・蒸しを楽しむことも可能。提供する側としては炭の管理などの手間が発生するが「梅乃葉ならではの食べ方を提案することにより、イカの美味しさを伝えていきたいんです」と福島さんは言う。

活イカ料理があまりにも有名ながら、その他のメニューも見逃せない。活イカの一部を使って身質が変わらないように保管方法などを工夫しつつ仕上げた「イカ天丼」は特に人気だ。ゴマの風味が効いた特製のタレをまぶした「須佐の漁師のまかない丼」も海鮮好きには溜まらない美味しさ。「まかない丼のたれ」は熱い要望を受けて商品化もされており、オンラインショップにて買い求めることができる。その他商品も充実しているため、自宅で梅乃葉の味を楽しみたいという方は併せてチェックしてみてほしい。

希少な活イカの入荷状況については公式サイトを通じて随時情報を発信中。取り置きの依頼も含めて電話での問い合わせにも対応しているため、ぜひ活用いただきたい。なお、活き造り以外のメニューは常に用意されている。いずれの料理も梅乃葉らしいこだわりが感じられる仕上がりで目移りしてしまうだろう。

人気メニューの一つ「須佐の漁師のまかない丼」

この味を伝えることに全力を尽くす

山口県産の魚介類を取り合わせてメニュー展開する梅乃葉だが、提供する活イカは全て須佐漁港の剣先イカとなっている。福島さんは活イカの取り扱い当初から「このイカの味をたくさんの人に知ってもらいたい」という強い思いを一貫して持ち続けているそうだ。活イカの文化を広く発信してイカの価値を高め、漁師たちの恩に報いたい。さらには地域経済の発展に寄与したい。「数を消費するというよりもイカの価値を伝えることにフォーカスして、地域全体に良いサイクルを生み出す。それが私の使命だと考えています」と福島さんは力を込める。

地方での事業展開が難しい時代にあって、梅乃葉という店を続けること自体にも意義があると考えている。梅乃葉がお客様の支持を集めながら存続することが、地域の若い世代にとって刺激になればいい。そのためには時流に合わせて柔軟に変容を遂げる必要がある。独自の創意工夫を重ねながら活イカの魅力を見つめ続ける福島さん。その歩みは止まることがない。

口福の馳走屋 梅乃葉

〒759-3411 山口県萩市須佐5010-1 地図を見る

TEL/08387-6-2354
※電話対応時間/8:00~11:00 14:00~16:00
営業時間/11:00~14:00
定休日/毎月5日、毎週水曜日
※火曜日店休の場合あり

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