養殖から加工まで
ニーズに応えて進化
安全・安心で美味しい牡蠣を
養殖から加工まで
ニーズに応えて進化
安全・安心で美味しい牡蠣を
呉市/広島
2024.03.16
生産量日本一を誇る広島の代表的な食材の一つ「牡蠣」。その広島で生産量が最も多い呉市の島しょ部に位置する倉橋島の南側にある倉橋町は、呉駅から車で40分ほど。真紅の橋として有名な第2音戸大橋を渡ってたどり着きます。
広島県の最南端に位置する倉橋島は瀬戸内海の中程に位置し、古くより造船の街として栄え、特に木造船の造船技術は素晴らしく、1200年以上前の遣唐使船も倉橋島で作られました。
そんな倉橋島の倉橋町で1962(昭和37)年に創業した倉橋島海産 株式会社。牡蠣養殖から加工まで一貫生産し、全工程において徹底した管理をすることで身入りが良く美味しい牡蠣を販売しています。
「大良」とは倉橋島海産の屋号ですが、市場では「大良」マークが付いた牡蠣は良い牡蠣の代名詞として、その名が広く伝わるほどだそうです。倉橋島海産の代表取締役である斉藤紲男さんにお話をお聞きしました。
水揚げされたばかりの牡蠣
倉橋島海産が牡蠣の養殖業を始めたのは、1962(昭和37)年のこと。倉橋町で漁師をしていた斉藤さんの父が、牡蠣養殖業者への転業を決めた。転業の背景には「筏式垂下法」という新たな養殖法の誕生があったという。
広島ではそれまで、牡蠣を付着させた貝殻を干潟に作った棚にぶら下げて成育させる「杭打垂下法(簡易垂下法)」という養殖法が一般的だった。しかし「杭打垂下法」は広い干潟を必要とするため、遠浅の地形をしていない島しょ部には向かない。一方新たに誕生した「筏式垂下法」では、干潟の棚ではなく筏に種牡蠣を付着させた貝殻をぶら下げて成育させるため、島しょ部でも牡蠣の養殖がしやすくなったのだ。
こうした技術の進歩を追い風に、牡蠣養殖を始めた倉橋島海産は、1975(昭和50)年には法人化。現在は自社で年間約300トンもの牡蠣を養殖する企業に成長している。
牡蠣フライの製造レーン
牡蠣養殖業者として成功を収めた倉橋島海産は、1978(昭和53)年に最新設備を有する工場を新設した。広島では昔から「むき身の文化」があり、収穫した牡蠣の多くが殻をむいて出荷されてきた。しかし牡蠣むきの作業は重労働で、労働環境も衛生的なものとは言えなかった。「劣悪な環境でやっとったから、『牡蠣小屋』や『牡蠣納屋』と呼ばれてたんよ」と当時の環境を振り返る斉藤さん。そんな環境を改善してほしいという広島県からの要望を受け、衛生的な工場を新設したのが倉橋島海産だった。
そして1997(平成9)年には、冷凍食品工場も竣工。最新設備を有する工場で、養殖した牡蠣を冷凍フライへと加工するようになった。種牡蠣から最終商品まで、一貫生産するようになったのだ。一貫生産を始めるきっかけとなったのも、周囲からの要望だった。取引先のスーパーから、一貫生産で冷凍フライまで作ってほしいと声が掛かったのだ。
広島には数多くの牡蠣養殖業者がある。その中でなぜ倉橋島海産に声が掛かったのかと聞くと「分からんね」と謙遜する斉藤さん。しかし、仮に倉橋島海産が信頼の置けない養殖業者だったとしたら、声が掛かることはなかったはずだ。養殖業者として真摯に美味しい牡蠣の生産に取り組み、変化を恐れずニーズに応えようとしてきた姿勢が、倉橋島海産を牡蠣の養殖から加工までできる企業に押し上げたのではないだろうか。
消費者にとって、牡蠣の安全性については大きな関心事だろう。倉橋島海産ではそうした安全性に対する消費者のニーズに応えるべく、工場に最新機器を導入したり、モニタリングを徹底したりして、衛生的に商品を出荷できるようにしている。その代表的なものが「PSOP(Pascal Steam Oyster Plant)」と「HACCP(Hazard Analysis and Critical Control Point)方式」だ。
「PSOP」は最新鋭の加圧式自動牡蠣むき機。牡蠣に圧力をかけることで、殻と貝柱の接着面を分離させ、異物を混入させることなく衛生的に殻と身を分離できる機械だ。また圧力によりタンパク質変性が起きるため、むき身の味も美味しくなるという。
「HACCP方式」は、日本語で「危険分析・重要管理点方式」と訳される衛生管理の方法。一般的な工場では、最終商品の抜き取り検査を行っているが、この方法では危険な食品が市場に出て食中毒を起こす可能性を排除できない。一方「HACCP方式」では、原料の入荷から製造・出荷までの全工程において危害を予測し、その危害を防止する重要管理点を特定。重要管理点を継続的にモニタリングすることで、危険な食品が市場に出る可能性を最小限に抑えられる。
「PSOP」や「HACCP方式」を導入している牡蠣養殖・加工業者は、広島県内でも少ないという。変化を恐れずニーズに応えようとする倉橋島海産ならではの取り組みと言えるだろう。
本社から望む瀬戸内海。右手には周防大島(山口)、左手には中島(愛媛)などが見える
今後、倉橋島海産では牡蠣の養殖を続けていくのはもちろん、消費者や取引先、流通業者のニーズに応えられるような牡蠣の加工商品を開発していきたいという。また牡蠣の魅力をより多くの消費者に伝える取り組みにも、力を入れていきたいそうだ。具体的にはSNSによる情報発信や、販路の拡大を考えており、すでに着手している。
SNSについては「今はSNSを使ってどんどん情報を開示せにゃ。黙っていてはいけないな。養殖することも大切だが、情報を発信することにも力を入れていかないといけない」と斉藤さん。その言葉通り「Instagram」や「X」に、牡蠣に関するさまざまな情報を美味しそうな牡蠣の写真と共に載せている。
販路を拡大する取り組みについては、2024(令和6)年1月15日〜2月15日まで、広島駅ekie 2Fの特設ブースで「完熟スモークオイスター広島」の販売を行った。今後の更なる販路拡大に期待が高まる。
ニーズに合わせて変化し続ける倉橋島海産の、これからに注目していきたい。
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