広島・山口の魅力を伝えるポータルサイト「てみて」広島・山口の魅力を伝えるポータルサイト「てみて」

萩市/山口

他にない絶品シラスの味を守りながら
未利用魚に着目したユニークな商品を展開
歴史ある萩網元が示す漁業の新たな可能性

萩市/山口

椙本 将司_椙八商店

2025.01.22

山口県萩市にて漁業と海産物加工製造業を営む「椙八(すぎはち)商店」。漁獲から加工に至るまでの工程を一貫管理して仕上げた「萩網元ちりめん」などの商品を販売しています。主な原料は地元の前浜で漁獲したシラス。日本海に育まれた萩沖のシラスはクセのない優しい味わいが特徴です。

今回お話を伺ったのは有限会社椙八商店の専務取締役を務める椙本将司さん。漁師家業の6代目として自らも漁に出ます。一方で従来廃棄されていた「未利用魚」に着目。スナック菓子を開発するなど、漁業の新たな可能性を模索し続けています。その根底にある思いとは。椙八商店の歩みや商品の魅力も含めて深掘りしました。

漁業の新たな可能性を模索する椙本将司さん

家業を継ぐに当たって求められた変化

大学進学を機に一時は萩を離れた椙本さん。東京での生活も水が合ったというが、子育ての環境などを考えて帰郷した。当時は家業を継ぐことに迷いもあったとか。しかし、大学入試の小論文には学んだことを自社へ還元したいと記述しており「ずっとそういう意識は持っていたんでしょうね」と振り返る。帰郷して一年ほどは工場での作業に従事。その後、2017(平成29)年より漁師になった。

漁業の現場に身を置いた椙本さんはさまざまな問題に直面したそうだ。まず、海の状況が昔とは違う。以前より大きな魚が獲れるようになってその分の売り上げは伸びたものの、全体の漁獲量は減少。そこへコロナ禍の影響により売り上げが落ち込み、経営を圧迫したという。家業の存続も危ぶまれる中、絶対に諦めたくないと前を向いた椙本さん。独自の着眼点を生かして新たな事業に着手した。

未利用魚を原料に「ESO SNACK」を開発

最初に取り組んだのが未利用魚の活用だ。それまで網にかかっても廃棄せざるを得なかった魚を加工。ラーメンの出汁を取る煮干しとして販売したところ、大いに需要があった。さらに、未利用魚の一種であったエソの稚魚を原料とする「ESO SNACK(エソスナック)」を開発。スナック菓子に加工することで、未利用魚の価値をより高めることができたという。

現在、ESO SNACKは山口県内の道の駅や椙八商店の公式サイトなどで買い求めることができる。また、保存食の文化が根付いた寒冷地のマーケットでの販売も決定したといい、今後その注目度はますます高まっていきそうだ。ユニークなパッケージも相まって各種展示会などでも人目を引くというESO SNACK。椙八商店の販路拡大に貢献している。

シリーズの1つ「イワシスナック」

培った加工技術を生かして

未利用魚に続き、自社の港以外で獲れた魚も原料として活用するようになった。もとより好不漁の差が激しいのは漁業の常。椙本さんは不漁の際に「獲れないものは仕方ない」と半ば諦めてしまう現場の空気を肌で感じつつ、魚がないときにも事業を止めない工夫が必要とかねがね考えていたという。そこで、近隣の港から魚を仕入れて加工することに。わずかに距離があるだけでも漁獲状況が全く変わるため、生の加工原料を安定的に確保できるようになった。もちろん椙八商店が長年培ってきた加工技術と工場設備があってのことだ。

萩の網元(漁網や漁船を所有する漁業経営者)である椙八商店の歴史は古い。明治後期には漁を生業としており、その後山口県の許可漁業にあたるイワシ船曳網(ふなびきあみ)漁業権を取得。海底まで届く網を使用する船曵網漁業にはさまざまな魚を一網打尽にできるというメリットがある。一方で網の中に混入した異物の選別作業に手間が掛かるため、簡単に採用できる漁法ではない。長きにわたって船曵網漁業と自社加工の双方に取り組んだことが、異物除去作業などの精度向上に繋がり、原料を仕入れての事業展開を可能にした。

2隻の船で網をひく船曵網漁の様子

こだわりが詰まった「萩網元ちりめん」

新たな事業に着手しつつ、椙八商店ならではの素材と味を守り続けることも忘れなかった。代表的な商品の一つといえる「萩網元ちりめん」は自社漁船によって漁獲したシラスの使用にこだわった極上の逸品だ。市場での競売工程を挟まずに加工することから抜群の鮮度を誇る同商品。素材そのものの美味しさを存分に堪能することができる。製造に際しては海面付近のシラスを丁寧に掬い取る作業が発生するものの「こういう良いものを作り続けていきたいから今の商売をやっているところもあります」と椙本さん。柔軟な姿勢で事業のブラッシュアップに取り組みながら、椙八商店の矜持を見失うことはない。

なお、萩沖のシラスは「スッキリしていて食べやすい」と称されることが多いという。しっかり脂がのっているのに胸焼けすることなく口にできると人気だ。時期や天候によって漁獲できないケースもあるが、見掛けた際にはぜひ味わいたい。

漁獲後すぐに加工される釜揚げシラス

既存事業を守りながらさらに先へ

現在は週に二度ほど漁に出て、そのほかの日には主に営業活動を行っているという椙本さん。関東以北の地域にて加工品の引き合いが強まっているため、遠方まで足を運ぶことも多い。ESO SNACKといったオリジナリティ溢れる商品の数々も順調に売り上げを伸ばしているが、今のところ新商品を開発する予定はないのだとか。「さらに手を広げるとなると原料の輸入といった話になるので。それよりも現状で築き上げている事業をしっかり守っていきたいですね」と椙本さんは言う。

一方で、より多角的な視点からの展望も思い描いている。いずれは萩に根付いた他の一次産業とコラボレーションしたり、自社のシラスを堪能できるレストランをオープンしたりといったことにも挑戦したいそうだ。椙八商店が今後どのような形で漁業の新たな可能性を示してくれるのか。引き続き目が離せない。

OTHER ARTICLES

その他の特集記事

もっと見る

人、まち、社会の
つながりを進化させ、
心を動かす。
未来を動かす。