地元企業が力を合わせ
日本海から引き込んだ清浄な海水で
トラフグを陸上養殖する
地元企業が力を合わせ
日本海から引き込んだ清浄な海水で
トラフグを陸上養殖する
長門市/山口
2024.12.25
山口県の北側に位置する長門市仙崎。本土と、日本海に浮かぶ青海島からなるエリアです。本土の仙崎港には、青海島の外周を一周する観光遊覧船が発着。自然が削り上げた洞門や断崖絶壁など、「海上のアルプス」とも称される青海島の絶景を堪能できます。
美しい景観により人々を魅了する青海島。そこで水産養殖業を営むのが、長州ながと水産です。自然の力でできたトンネルから引き込んだ外海の清浄な海水の掛け流しにより、トラフグを陸上養殖。また内海となる紫津浦に設置した筏では、サバ・ウマヅラハギ・シマアジ・タイなどを海面養殖しています。
青海島の養殖施設に伺い、長州ながと水産のあゆみやトラフグの陸上養殖について、山下 徹さん、河部 努さん、小川 渉さんにお聞きしました。
左から河部 努さん、山下 徹さん、小川 渉さん
長州ながと水産は水産養殖業の維持・発展や、地域活性化などを目指し、複数の地元企業と個人によりつくられた会社。地元で4代続く鮮魚店の「大小早川商店」、飲食店を経営しながらネット通販事業も手掛ける「㐂楽(きらく)」、建築会社の「安藤建設」、建築資材メーカーの「花谷工業」、地元の漁業者などが集結し、2014(平成26)年に青海島に創業された。
現在はトラフグの陸上養殖と、サバ・ウマヅラハギ・シマアジ・タイなどの海面養殖を行っている。陸上養殖で育てられたトラフグは、長州ながと水産の出資企業でもある大小早川商店と㐂楽に全数卸され販売されている。さまざまな企業・個人が協力することで水産養殖業の6次産業化を実践し、競争力を向上させているわけだ。
「長州ながと水産のトラフグは『身が綺麗で美味しい』と、お客様から好評をいただいています」と山下さん。餌代や電気代などの高騰により販売価格が上昇する中でも、需要は右肩上がり。需要の高まりを受けて、養殖施設も徐々に拡大中だという。
長州ながと水産が身の綺麗なトラフグを生産できるのは、「清浄な海水を水槽に引き込んで、飼育水にしているから」と山下さん。陸上養殖施設のそばには、外海につながる長さ300〜400mほどの人工トンネルがある。そのトンネルにパイプを通して外海の清浄な海水を引き込み、水槽に掛け流しているのだ。常に清浄な海水の中で過ごせるため、身の綺麗なトラフグに育つという。
トラフグは5月に人工種苗を仕入れ、1年〜1年半ほどの飼育期間を経て出荷サイズにまで成長させる。出荷サイズは時期により異なるが、冬場は特に大きく1.5Kgを超えることも。トラフグは丈夫であるため育てやすい魚種と言われるが、出荷に至るまでには苦労も少なくないそう。
特にトラフグ同士の噛み合いを防ぐための歯切りは、手間のかかる作業だという。6、7人で1週間以上かけ、ニッパーを使って1匹ずつ歯を切っていく。飼育施設には直径8.5mの水槽が11基あり、成魚は1水槽に1000匹ほどが、稚魚の場合はそれ以上の匹数が飼育されている。その1匹1匹の歯を切っていくというのだから、想像しただけで気が遠くなりそうだ。しかもこの作業は、1年に4回以上繰り返さなければならないという。育てやすい魚種と一言で片付けてしまうことはできないだろう。手間暇を惜しまず育てなければ、噛み傷のない外見も綺麗なトラフグを出荷することはかなわないわけだ。
水槽内の他のトラフグを傷つけないよう歯切りされている
現在、長州ながと水産では歩留まり率8割以上を目指してトラフグを養殖している。最近ではトラフグが死亡することなどは少なく、目標を達成できることも多いという。しかし創業して数年のころには、赤潮が発生した海水を水槽に引き込んでしまい、トラフグの出荷に影響が出たこともあるそう。それは苦い経験だったが、同時に大きな気づきも与えてくれたという。
「当時の私たちは未熟で、自然の力を甘く見ていたところがありました。赤潮の被害に遭ったことで、自然と向き合い、良く観察することの大切さに気づかされました」と山下さんは噛み締めるように言う。その教訓を生かし、現在では赤潮が発生しやすい3〜7月には、毎日欠かさず外海の様子を確認しているそう。赤潮が認められた場合はすぐに海水の引き込みを止め、水槽に酸素を多めに入れるなど対応をしている。
また赤潮の時期だけでなく、毎日の養殖作業でもトラフグや飼育環境の観察に力を入れるようになったという。各水槽に海水をしっかり引き込めているか、酸素が出ているか、トラフグの状態はどうかなどを朝一番に確認し、作業前のミーティング時に共有しているそう。赤潮という試練により身に付けた観察力は、現在の長州ながと水産のトラフグ養殖を支えている。
長州ながと水産のトラフグが取り扱われている店舗がある、道の駅「センザキッチン」
清浄な海水を引き込み、手間暇かけて育てられた長州ながと水産のトラフグ。購入は道の駅「センザキッチン」内の大小早川商店で可能。同社で捌いたトラフグの刺身などの加工品が販売されているため、安心して食べられるはずだ。また、食事と宿泊ができる和食処「きらく」でもいただくことができる。お近くの方は足を運んでみてほしい。遠方にお住まいなどで各店舗に足を運べない場合は、大小早川商店のECサイト「仙崎ふぐ大小」と㐂楽のECサイト「山口ふぐ本舗きらく」でも購入できる。フグ刺しはもちろん、鍋用に加工されたものや唐揚げなどもあるのは嬉しいポイントだ。
最後に、お客様へのメッセージは?と山下さんにお聞きすると「長州ながと水産は、今後もトラフグの魅力を全国に広めていきます。食べてその美味しさを実感してください。また私たちのトラフグをきっかけに、綺麗な海や美味しい魚がある長門市にも興味を持っていただけたら嬉しいです」という答えが返ってきた。トラフグ養殖に向き合う山下さんたちや、長門市仙崎の豊かな海に思いを馳せながら食せば、より一層美味しく感じられそうだ。
その他の特集記事
人、まち、社会の
つながりを進化させ、
心を動かす。
未来を動かす。